衒学者の回廊/園丁の今の言の葉

「神の国」の前に
May 26, 2000
 
English version

森首相が発言を撤回しない、とか、陳謝したとか、そういうことに先立ってわれわれが問わなければならないこととは、「神道政治連盟国会議員懇談会」とは何か、ということである。首相発言がどうのとか言う前に、その「懇談会」がどういうものであるか、われわれは知る必要があり、その上で、その会に森首相が出席する、ということ自体の意味を問うべきである。そして、発言そのものの内容と、「撤回」するしないを巡るその後の森発言をひとつひとつ順を追って考えるべきである。

もちろん、「撤回しない」で行う陳謝というものが理屈として成立するのかというのは、それだけで考察の余地がある。しかし、それは別 の機会に譲ろう。

われわれの課題は、(誤解を恐れずに言えば、)世間で問題になった「対象」を自分の世界観を使って単に攻撃して否定し去ることではなく、彼らを知り理解することである。その上で彼らがわれわれの真の敵であるのかの判断がなされるべきであり、もし敵であるのなら、なお一層彼らを知ることが急務である。攻撃されたって、彼らはいなくならない。現に、これだけ多くの非難の集中砲火を浴びたって、彼らはかえって首相の擁護をしている(May 25, 2000)ほどではないか。そして、またこの懇談会に出席した「首相の意図」を研究すべきである。「懇談会」が擁護を発表したと同時に、首相は、もうこの「懇談会」に関わらない、と言っていることは、彼のこの会へのコミットメントの程度を語っていないか。

さて、この「懇談会」が人々の非難(これを単に感情論として退けるものではないが)を受けて、自己批判し、反省し、解散する、等と言うことはあり得ないのだから、どのように彼らと関わり、闘うか、が今後のわれわれの課題である。そんな意味で、今回の森発言が、こうした懇談会やそれに類する評議会などの存在とその理由、背景、主張などが浮き彫りにされるきっかけになった、とぐらいに思っておけばよいのだ。

そもそも「神道」という宗教の名前と「政治」という言葉のもとに、「国会議員」という選挙を通 して国民によって選ばれた人々がひとつの「懇談会」を開いて何かしている、ということ自体に謎が多い。一体彼らは何者なのか? 国民から選挙で選ばれた「議員」が、「政治」的理由で集まり、政治と分離しているはずの「神道」という宗教について語る懇談会、という風に解釈する以外ないようだが、どうだろう。一体何を目指す集団なのであろうか。国民から選ばれた「議員」が、その場では私人として出席して、神道を中心とする新しい政治制度を夢見ながら飲んだり食ったりする会、とでも言うのだろうか。

だが、「議員」という肩書きは公人のものであるので、私人として出席するものであれば、「議員懇談会」と命名された「私人としての会」というのは説得性がない。議員OB会ならば、私人となった元議員が勝手な夢を語る懇談会だから、それを制限する法はないだろう。

問題は、森首相が発言を撤回してもしなくても、陳謝してもしなくても、「神道政治連盟国会議員懇談会」は存在したし、これからも存在する(名前を変えてでも)。撤回や陳謝と関連なく、首相や歴代首相はそれに出席するのだろう。そもそも森首相がこの懇談会でスピーチしたのは、ある熱心な神道政治を夢見る一個人としてではなく、他でもない内閣総理大臣という地位 があったためだろう。そうでなければ、どうして彼が呼ばれたであろう? その影響力のある家老級の政治家が集まる「懇談会」に出席して挨拶することは、首相として政治的に必要なことだったのかもしれないし、「懇談会」の側にしても、他でもない内閣総理大臣が「公人」として出席してもらうことで、より箔が付くし心強いわけだ。

そんなこんなで、ここで彼が陳謝でもして一件落着してしまう方が、われわれのためにはならない。かれはそもそも陳謝するべきでないし、一度なした発言をそう簡単に撤回できるものでもない。そして、この問題は永続的に検討の対象として残るべきなのである。

さて、日本に、政教分離の思想に対してのコンセンサスがなく、「そもそも政治と宗教を分ける必要がない」と一部の議員たちが主張するのならば、よろしい、宗教の名を冠した立派な宗教政治団体になりなさい。自由民主党とか言わずに、神道政治党でも、日本神道愛国連盟でも何でもよろしい。キリスト教民主党という立派な政党がドイツにもありますよ。自分が何者かが一目で分かる政党名を付けて、そこで政治運動を興し、そこから出馬して、総理大臣にでも何でもなって下さい。森さんが「神道政治党」の党首だったとして、総理大臣になれたか疑問です。

それに、その懇談会に出席している全ての人の名簿が公開されるべきではないですか。

鈴木 政二
竹山 裕
寺井種伯
岡田一郎
綿貫民輔
柿崎義明(神道政治連盟県本部長)

10分調べただけで、これだけの名前が出てきましたよ。同懇談会のみならず、似たような名前を含めれば、もっと出てきます。自分が支持して投票する政治家がどんな「宗教団体」に属しているか、ちょっと調べてみるのは面白いんじゃないですか?


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