衒学者の回廊/園丁の今の言の葉

Internet Explorer 5の陰謀(名付けて"IE 5 Conspiracy")
March 19, 2001
 
English version

まず、下↓の絵を見て欲しい。

これは世界で最も広く使われている(と言われる)Microsoft社のInternet Explorer 5 (for Macintosh) と呼ばれる「有名」なブラウザソフトの“初期設定”(カスタマイズを可能にするあなたのための設定場所)の画面である。当然マック・インターフェースなので、あなたがウィンドウズ・ユーザなら、ちょっと違和感を感じるだろうし、そんな方はここは読み飛ばして頂いて良い。(でも本当は読んで欲しい。)

問題は赤○で囲ってある部分である。あなたが勘の良いマックユーザなら私が何を言いたいのか、もう分かった!かもしれない。たかが初期設定の問題であるが、されど初期設定である。ソフトメーカ側が用意する“出荷当時の初期設定”(いわゆる「default」設定という奴)、しかもそのフォントサイズが、ここで今回私が取り上げたい課題なのである。そしておそらくこれはネットで何か発信している(しようとしている)多くのWebmaster達の共通の悩み種がここにあるのではないかと私は憶測を深めているのである。

さてMacintoshの世界では、当初から印刷用フォントと“スクリーンフォント”がいわゆるWYSIWYG(What You See Is What You Get)を旨とするユーザ・インターフェースを目指しており、印刷したときの出力紙上での「出来栄え」とコンピュータモニタ上の「見栄え」を一致させようと初期の頃から目論んでいた。そんなわけで、あなたがだいたい印刷の仕上げを「12ポイント」と考えていたら、スクリーン上でもほぼ同等の12ポイントで表示され、しかもそれほどの苦労もせずにそれを読むことができた。こうした見栄えと出来栄えの一致(これはコンピュータの“言動の一致”だ)というのが、マックの直感的(intuitive)な使用を可能にしていたのだし、それがDTPなどの世界でマックが圧倒的な強みを誇っていた理由のひとつでもあったのだろう。

しかし、今はどうだか知らないが、その昔、Microsoft Windowsの画面はというと、実際の文書の仕上げがどうだか知らないが、妙に大きな文字がスクリーン一杯に表示されているという印象があった(誰もあんなデカい文字で紙に印刷する奴はおらんだろう)。それって単にコンピュータ画面の解像が悪かったからあれほどの大きさに表示しなければ、画面上で読むのがキツかったってコトの現れなんじゃなかろうか。これはモノの本に書いてあったことではなくて、私の勝手な憶測なので絶対的に正しいかどうかは分からない。だが私の憶測を裏付けるかのように、Windowsのデスクトップ上のアイコンも、これまた妙にサイズの大き(くしかも荒削り)なものだった記憶があるし、そもそもマックの世界で通用していたWYSIWIG(ウィズィウィグ)という使い勝手からもほど遠かったんじゃないだろうか。(← 一応、「名誉」のために過去形で言っておく)

いずれにしてもWindowsの世界での標準的な文字の表示サイズというのは、MacとWindowsではそれぞれ、開発当初から違っていた。Macでは実際の文字サイズと表示サイズにほとんど差がなかった一方、Windowsでは実際に文字サイズより表示サイズがかなり大きかったのである(← 間違ってたら誰か教えて!)

ここで問題になるのは、印刷出力という過程がほとんど関わらず、モニタ画面上だけでたいてい用が済んでしまうインターネットのブラウジング(閲覧)状況における「標準的文字サイズ」の考え方である。

さっきの赤○で囲んである部分は、IE 4.5 (for Mac) までは、無条件に「12ポイント」であったのだ。それがなぜあの中途半端な「16ポイント」に初期設定されて出荷されているのか。私の推理ではMacとWindows 間での画面上の文字サイズのギャップを埋めようというときに、自分たち(Windowsユーザの皆様)のあの巨大なサイズに設定されている「伝統的な標準表示サイズ」を小さくして「適正化を図ろう」(ということはマックに近づけよう)というのではなく、IEのマックユーザの側の表示サイズを「ちゃっかり大きく」して問題の解消を図ろうとしてているのではないか!と考えるのである。
(↑ Am I keen enough? Anything to say, Bill?)

もちろんこれはカスタマイズ可能なパラメータになったので、表示サイズを「12ポイントに変えてやればいい」話なのではあるが、一体、通常のWeb viewersの中で、どれだけの人が16から12ポイントに設定を改める(というか、私に言わせれば「設定を戻す」ということなんだけど)だろうか。しかも通常のユーザがどうして自発的にソフトメーカの初期設定を「変えなきゃいけない」と考えるだろうか。とくに、はじめてIE 5でネットサーフィンを始める人が、どうして設定を敢えて「小さい」方にし直さなければなけないと思いつくだろう。つまり、ここにはブラウザをタダで配るソフトメーカとしての強みがあるのだ。

下の絵を見て欲しい。これはその前のバージョン、Internet Explorer 4.5 (for Mac) の“初期設定”画面である。非常にシンプルで、そもそも標準的な表示フォントサイズをあらかじめカスタマイズできないものだった。つまり無条件に「われわれMac」の世界ではブラウザの標準表示サイズが「12ポイント」であったのだ。そしてそれが“正しいブラウザの設定”であったはずなのだ。

B.ここで見えている「この文字」がIE 4.5での??ポイントのフォントの表示サイズ(中)である。
(つまり標準的な画面表示サイズがこれ。)

上のA,B2つの表示が、あなたのマックのモニタで同じサイズで現れていれば、あなたの表示フォントの“初期設定”が12ポイントになっていると言うことです。もしBの方がAより大きく表示されているのであれば、このサイトの制作者の意図より大きく表示されている(おそらく16ポイント)ということになる。


そして、なんかのユーザ側の理由で、それより大きくしたり小さくしたいのであれば、ブラウザの「表示」メニュー中の[フォント サイズ]に最小/小/中/大/最大の5段階のオプションがあるので、そこから一時的に「中」以外のサイズを選べば良かったのだ。

ユーザ側のcustomization(ユーザ設定)があまりに容易で、しかも過多なオプションがあると、ユーザ側の使用環境が当然のことながら多様になるので、発信者側の意図した画面表示でユーザが閲覧できるとは限らなくなる。つまり、閲覧者に対して自分の意図した基本的な「見栄えappearence」を想定できなくなるのである。これはデザインする側にとって余分な気遣いをしなければならないことを意味する。テレビで言うなら、テレビ局で放送している縦横幅の比率をテレビ受像器の方で勝手にカスタマイズできて、場合によって画像の全体像が見えなくなり、そのすべての可能性を意識して番組を作らなければならない、というような事態(これって一時流行った“横長テレビの台頭”のことみたいだな)に近い。もちろん、インターネット・ブラウジングとテレビの性格が同じでなければならないわけではないが、ユーザが敢えて基本的な設定を変更してサイトを見たいのなら、そうした“簡便なオプション”を用意する必要はあるだろう。しかし、発信者の意図する「そもそもの見栄え」(originally intended appearence)というものは、どこかになければならないと思うのだが、どうだろう。これってwwwの発展史を無視した勝手なサイト発信者の言い分なんだろうか?

私はそれでも言いたい。IE 5におけるMicrosoft社の陰謀とは、バージョンアップのドサクサに紛れて、その基本的な見映えを「標準フォント表示サイズ→16ポイント」にインフレーションを起こさせることで、「そもそもそれがWebmasterの意図したサイズである」というような印象を広い一般閲覧者に与えることを図ったのである。こうした事態にどのように対処していくか、というのはマックユーザのWeb発信者にとっては切実な問題なのである。

私個人としては、断固としてみんなに「12ポイントにしてくれ!」と言いたいところだが、Microsoft社の陰謀によって「16ポイント」の標準フォントサイズが既成事実(defact standard)化されていく勢いを指をくわえて見ているしかないのか? 私だけが強がっても意味がないのか! 溜め息をつくしかないのか! こうして自分のWeb siteをそうしたマジョリティに併せてデザイン見直しをしなければならない日も近いかも知れないのである。くやしいねえ(泣)。誰か何とか言ってくれ!

 

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