■ 波頭とフィニアル
* 音的には「Sunday」と同じ。 この中央の物体に一歩手前まで迫ろうとする部分は「波頭」形状が一般的であり、伝統家具の世界でそれは「crest」と呼ばれる。一方、中央の「物体」はフィニアル(finial) と呼ばれる。フィニアルは、家具だけでなく、柱時計、マントルピース、建築、土木など大小さまざまな伝統職人の扱う創作物中に登場する。また、Finial*は、英語の「finish, final」と同じ語源を持つ。Fin(仏)、Finito(伊)は「終わり」の意味を持つ。つまり、中心に迫る波頭は「終わり/完」への最後の(直前の)一歩を描いているのである。家具や建築に於けるこの「フィニアル」の役割は、その製作の「仕上げ」を意味しているのであって、すべての行程を終えていよいよ作品の完成という時に、その作品の中央に据え付けられるのである。 だが、以上のような「顕教的」な説明は、そのオブジェクト自体がわれわれの内面 (無意識域)にほとんど直截に訴えかけ伝えようとしている内容とのあいだで微妙な一致を示しながらも、そもそもそれが「何の仕上げなのか」という「象徴されるもの」自体の本質の全てを明らかにしない。しかし、そもそも家具(とりわけ「時計」)といった道具自体に「完了」や「終わり」を意味するものが「掲げられる理由」は、そのオブジェクト以外に求められるのである(あまりに自明なことであるが)。すなわち、「象徴するもの」は、「象徴されるもの」あるいは「象徴される出来事」を指し示すに他ならない。そしてそれらは単なるオーナメント(装飾品)以上の意味を持つのであり、「指し示されるもの」というのが断じて外在するということなのだ。 * 場合によってはクロップ(crop)と呼ばれる。「作物」「収穫物」の意味である。このフィニアルがパイナップルやその他の果 物に置き換わることのできる理由が、その意味「至上権」から憶測することができる。 家具やランプシェードに付けるフィニアル(左) 建築物に使われるフィニアル(右) | パイナップルに姿を変えたフィニアル。「クロップ:収穫物」の名でも呼ばれるフィニアル。サウスカロライナ州チャールストンに於けるジョージ・ワシントンが幼少を過ごした家が博物館になっている。その家の家具のほとんどにパイナップル状のフィニアルが付いている。それを館内のガイドに意味を尋ねると、「Pineapple means hospitality.」(パイナップルはおもてなしの意味)」であった。 後半ではフィニアルのバリアント、そして日本におけるその代替物を見ていくことにする。それは、世界中に見出される、後にわれわれがいよいよ<Ω祖型>と呼ぶことになる図像祖型群へとつながっていくのである。
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