窒素ラジカルの『正論・暴論』

新生銀行再上場の苦み−カネボウでも税金の使い道を監視せよ
Uploaded 2004.2.29
 

旧長銀の経営破綻から5年4ヶ月、それを引き継いだ新生銀行が2月19日再上場を果たした。その日、不良債権の少なさをはやして、株価は公開価格525円を58%上回る827円で引け、最優良行三菱東京に並んだ。破綻銀行の再上場は初めてのことで、先ずはめでたいことと言わなければならないだろう。

しかしながら巨額の国費がつぎ込まれた同行の発足時の疑惑、外国のいわゆる「はげたかファンド」がこれによって巨利を得たことにより、日本国民の多くは苦い思いを噛みしめたに違いない。

経済ジャーナリスト須田慎一郎氏(「長銀破綻」の著者)によると、長銀が破綻したときアメリカの財務省筋から、「日本が積極的に変わっていくというのなら、長銀を外資に差し出すのが適当」と圧力がかかったという。リップルウッドが巨利を得たことについてどう思うかと記者団に聞かれた小泉首相は、「国内の資本は名乗り上げなかったのだから仕方ないでしょう」という意味の答えをした。しかし初めから譲渡先は外資と決まっていたというのが真実らしい。

先ず破綻処理のアドバイザーになったのが、アメリカ政府要人と深い繋がりのあるゴールドマン・サックスであった。この裏でゴールドマン社を押したのは、かつて同社の役員であったルービン前財務長官とされる。新生銀行発足後は取締役就任が噂されていたが、辞退したといわれる。

ゴールドマンサックス社が買収先として推薦したのがリップルウッドホールディング社であった。これは全くのできレースで、ゴールドマン社で長銀処理を担当したユージン・アトキンソン氏は、その後リップルウッドの副社長に就任している。そして新生銀行の取締役に就任したJ・クリストファー・フラワーズ氏もゴールドマン社の出身である。

すなわちゴールドマンサックス社は、200億円ともいわれるコンサルタント料をもらって、売り手側の日本政府の利益を図るべき立場にありながら、いわば身内(リップルウッドを中心とした投資ファンド「ニュー・LTCB・パートナーズ」)に僅か10億円で長銀を売り払った。その上、「瑕疵担保条項」といわれる破格の買い手側への優遇策を政府に飲ませた。この条項は「譲渡後3年以内に、引き継いだ債権が2割以上劣化した場合には、国が簿価で買い戻す」というものである。これは問題のある貸付先を新生銀行が潰せば潰すほど国に肩代わりしてもらえるという、とんでもない「不平等契約」なのである。事実新生銀行はいわゆる「貸しはがし」の先鞭を付けて非難された。

新生銀行の役員には、ボルカー前FRB議長、元チェース・マンハッタン銀行会長のD・ロックフェラー氏、マックギン・メロン銀行会長、クリントン前大統領の公私にわたる友人とされるユダヤ系投資銀行社長ジョーダン氏など、米国インナーサークルの頂点に立つ人達が就任した。かくして新生銀行は、日本的な銀行のあり方とは一線を画し、問題企業への債権放棄を拒否したために、やむなく他銀行が肩代わりせざるを得なかった例もある。

長銀に投じられた公的資金は実に8兆円、この内最終的に国民負担になるのは4ないし5兆円といわれる。これに対して今度の上場でファンドは2200億円の株式売却収入を得た。残りの保有株式には約6800億円の含み益が発生している。しかも念の入ったことに、ファンドがオランダ籍のため、売却収入には日本の税金は1円もかからないという。イギリスのフィナンシャルタイムスが「あほな日本」と嘲笑したというが、まったく「出るは溜息ばかり」ではないか。

文字通り外資に日本政府は手玉に取られた。授業料と言うには余りにも高かった。この長銀処理といい、前回(景気回復を検証する)指摘した円売り介入政策やイラク派兵といい、日本の政策担当者はどこを向いて仕事をしているのかと言いたい。

所で最近カネボウが花王と合意寸前になっていた化粧品部門売却を解消して、産業再生機構を利用する経営再建策を発表した。花王と同社で詰めに詰めた契約書案は高さ1m近くもあったという。その合意をドタキャンする異例の展開になった。破談の理由は労働組合の反対であったとされるが果たしてそうか。そうであるなら社員の説得もできないでどうして経営者がつとまるのか。再生機構は「できる限り迅速かつ前向きに検討する」という。再生機構にはこれまで支援を決めた案件が小粒すぎるという批判があったが、それを跳ね返せるという思惑が見て取れる。

カネボウ案はカネボウにとっても主力取引銀行三井住友にとっても虫が良すぎると見られている。化粧品事業の評価額を5000億円と見積もっているが、花王の評価額は推定で4400億円、買収の対抗馬ユニゾン・キャピタルは4000億円、ある専門家は2500億円と評価している。また銀行には債権放棄を求めない。既存の販売会社を受け皿に化粧品新会社を設立し、カネボウの有利子負債5200億円の内、3500億円を新会社に移管する。再生機構には4250億円の投入を期待している。

そもそも再生機構が優良部門だけを支援し、繊維部門などの不採算事業が残るカネボウ本体の再建には関与できないというのは機構本来の目的からはずれているし、民業圧迫でもある。花王などが民間独自のソロバンで産業再編しようとしたものを、官が乗り出してリスクをとるというのもおかしな話である。失敗に終わればまたしても多額の税金を無駄遣いすることになる。

世間の批判を受けて、政府内からも見直しを求める意見が出ており、再生機構も厳格な資産査定をするといっている。しかし3月末に臨時株主総会を開いて再建案を決定しないと破綻の恐れがあるといわれ、時間切れでまたいい加減な税金投入が行われる懸念がある。

2月25日の予算委員会での生方幸夫民主党議員の追求によると、財政投融資や年金など血税・保険料の実に合計91兆円が失われているという。その責任を問われた小泉首相は「だからこそ私が首相になった意味がある。」と逆手にとった。このすべては自民党が中心となった政治が失ってきたものである。その責任も感じない人が首相である政府に対しては、国民の厳しい監視の目が不可欠である。

(2004.2.25)
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