窒素ラヂカルの『正論・暴論』

米世界戦略に組み込まれる日本
―米提案を拒否して独立を守れ―
Uploaded 2004.10.29
 

ブッシュ大統領は大統領選の最中、米軍の世界的な再編(transformation)構想を発表した。それによるとワシントン州の陸軍第1軍団司令部をキャンプ座間に移し、北朝鮮・東南アジアから中東・アフリカまでを含む「不安定の弧」へも展開する統合部隊の指揮系統を置く計画という。また横田基地にある第5空軍とグアムにある第13空軍の統合も提案されている。9月21日の日米首脳会談でも、在日米軍の再編に関する協議を加速することで一致している。このように世界を睨んだ軍の司令部を、他国へ移すというようなことが、独立した2国間であり得るのだろうか。直感的にも、ちょっと待ってくれよと言いたくなる話である。

日米安保条約第6条は、「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」と規定している。この条文は「極東条項」と呼ばれている。これまで政府は「極東」の範囲について、「フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び台湾の支配下にある地域もこれに含まれる」と説明してきた。しかし米軍は沖縄からイラクへ出動しており、事実上この条項は空文化している。

とはいえ、米国の軍事力の世界的な配置換えに、丸々組み込まれることとは全く次元の違う話である。これは安保条約の想定を遙かに越えた事態である。だからこそ自民党の中にも、また政府の中でさえ条約との整合性を説明することは難しいとして、計画の受け入れに慎重な意見がある。とくに外務省は慎重派であった。ところが新任の町村外相は「初めに極東条項ありきでは非常に狭い議論になる。ここは頭を柔らかにして考えてみるべきだ」と、米提案容認とも受け取れる発言をしている。

大野防衛庁長官も記者会見で「日米安保は日本の安全、アジア太平洋の安全が主体だが、当然世界の平和と安全も視野に入っている。日米でもうちょっと世界的にも協力するということを議論していきたい」と、安保の再定義に積極的な姿勢を表明している。防衛庁ではもともと、小手先の回答でなく、米と積極的な戦略対話、すなわち「トータル・パッケージ」で臨むべきだ、との考えが強い。

これに対して、19日、細田官房長官は「今のところ、まったく96年の安保共同宣言の見直しも考えていないし、極東条項についても見直すことは考えていない」と述べ、安保再定義の必要はないとの考えを示した。これは政府部内で「スモール・パッケージ」と呼ばれている考え方である。米側は「スモール・パッケージ」に不快感を示したと伝えられているし、果たしてこれで米国の説得ができるか、またこれで閣内統一ができるのかわからない。

町村外相もその後の国会での質疑応答では、「新聞等で報道されているのは憶測によるもので、まだ日米間で、具体的にどこの基地をどうするとかと言う話は全く出ていない」と逃げの答弁をしている。この点は今月半ばに来日したアーミテージ国務副長官が、「我々が先ずキャンプ座間について、と言い始めたのは、順番が間違っていたかも知れない。十年、二十年後の日米同盟の理念から議論を始めた方がいい」とのべたことと無関係ではないだろう。

21日の参院予算委員会で社民党の福島党首が、「日本の中に米軍の司令部を持ってくることは、日米安保条約の極東条項を超えて許されないのではないか?」と質したのに対し、細田官房長官は「基本的にはそう考えている」と答えた。長官はそれを政府の統一見解だとしている。「基本的には」というのが曲者であるが、今のところ政府は大げさな問題にするのを避けたいようである。

それを受けて米政府も従来の交渉法を転換し、戦略協議からはいる三段階方式で早期決着を図る方針だと伝えられる。しかし方式を変えても、最終的には日本を米国の世界戦略に深く組み込む意図を持っていることは明かである。
 
すでに自衛隊の二人の佐官が米国フロリダ州タンパにある米中央軍司令部に派遣されている。ここにはイラク村、アフガン村という二つの村がある。ここにはそれぞれイラクとアフガンに軍隊を派遣している有志連合の軍人が一緒に生活している。そこでは米軍の最高機密の情報が入手できる。日本の自衛隊員はイラク派遣のお陰でこの情報に接することができる。しかしイラクに軍を派遣しなかったドイツは、アフガン村にはいるがイラク村には入れない。また自衛隊は日本国内では使えない兵器の演習を、ワシントン州の広大な演習地で行っている。すでに自衛隊は米軍にがっちり組込まれているのだ。

すでに述べたように、在日米軍の極東以外への戦闘作戦行動には、日本と事前協議が義務づけられているが、米軍がアフガンに出動しようとイラクへ移動しようと、ただの一度も事前協議が行われたことはない。極東条項はとっくに形骸化している。すなわち米軍は日本国内の基地をどこへ出動するにも自由に使えるようになっている。

これには日米間の裏約束があるからである。朝日新聞が入手した60年米政府作成の機密文書「日米安保条約における事前協議取り決めの解説」によると、「日本から米国又は極東の他の地域への米軍及び装備の移動」は、事前協議を必要としないことになっている。これによって日本の基地から湾岸、アフガン、イラクなどへの米軍、空母、戦闘機、ヘリコプター(普天間で墜落したヘリもイラクへ移動する予定だった)などの出動は、すべて「移動」として扱われてきた。

これは日本国憲法が禁じていると政府も説明している「集団的自衛権」の行使を、自動的に認めていることにほかならない。このように日本の自衛や日米安保周辺の問題は、ほとんどごまかしと曖昧さで塗り固められている。このような日本政府の過去の態度を見れば、今回の米軍再配置問題への政府の対応も、国内での問題化を避けるため、安保条約との関係を曖昧にしたままずるずると米国に引きずられていく可能性が高い。

日本では米軍は日本を守るために駐留していると、多くの国民はまるで「刷り込み」効果のように信じ込まされている。守ってもらっているし、北朝鮮もあるのだから米国追随も仕方がないと思っている人も多い。しかし駐留米軍の兵力よりも、自衛隊の兵力の方が圧倒的に大きいことは知らされていない。防衛費は世界第5位。自衛隊と在日米軍の兵力を比較してみよう。

 
自衛隊
在日米軍
陸上自衛隊または陸軍(人)
148000
1700
 
海上自衛隊または海軍(人)
44000
6000
艦艇乗員含まず。空母キティホークに5500など
航空自衛隊または空軍(人)
47000
13000
 
海兵隊(人)
0
20000
沖縄に15000
戦車(台)
1020
0
 
艦艇(隻)
140(38.8万トン)
17
第7艦隊40(61万トン)
航空機(機)
480
130
日本防空に責任なし

自衛隊は専守防衛の建前から、海を越えた攻撃をする能力はないものの、自国の防衛には十分な兵力を有している。戦争抑止力という点で米国に依存するのは、核兵器による抑止力くらいのものだろう。しかし非核3原則で日本には核兵器は存在しないことになっているので、核の傘の下にいるといっても常時日本から核兵器が北朝鮮を睨んでいるのではない。

駐留米軍の役割は、日本において考えられていることと、米国あるいは中国において考えられていることとは全く違っている。米国での考え方の典型が、いわゆる「瓶の栓」論である。沖縄の米第3海兵師団長スタックポール少将は、1990年3月27日付けのワシントン・ポスト紙のインタビューで、「もし米軍が引き揚げれば、日本はすでに極めて強力になっている軍隊を一層強化するだろう。我々は『瓶の栓』(Cap in the bottle)なのだ。」と語った。朝日新聞と米国ハリス社との協同世論調査では、米国人の49%が駐留目的を「日本の軍事大国化防止」と答えた。中国などの見方もこれに近い。すなわち米軍が駐留していてくれた方が、日本の暴走を防いでくれるという見方である。

2003年の世界中の米軍の駐留経費の内、日本のそれが46.2億ドルと突出しており、ドイツ8.6億ドル、韓国8.5億ドルで、日本を除くすべての経費を合わせても28.8億ドルにしかならない。これは日本が「思いやり予算」という、実にけったいな経費を貢いでいるためである。こんなに思いやりのある国には軍隊を駐留させたくなるわけである。

一方ラムズフェルド米国防長官は、歓迎されない国に米軍を駐留させることはないと言明している。政府はともかく、多くの国民は米軍基地を歓迎していない。「瓶の栓」でしかない米軍にいてもらう必要はない。それなのに他国の世界戦略にがっちり組み込まれる形で日本に米軍司令部を置いたら、ただでさえ怪しい独立性は、さらに決定的に損なわれるだろう。

日本は米国の51番目の州だとか、日本の首相はかつて香港などの植民地にいた総督だ(ビル・トッテン氏)とか、ひどい揶揄的な評価が公然と流布される今日、ブッシュの幇間みたいな首相が米国の要求に屈してしまえば、長い将来にわたって日本は米国の属国の地位に甘んじなければならないだろう。そうなれば戦争放棄も武器輸出3原則など吹っ飛んでしまう。日本は大きな岐路に立っている。

(2004.10.28)

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