窒素ラヂカルの『正論・暴論』

地方政治改革への道遠し
―ひどいのは大阪市だけではない―

Uploaded 2005.6.18
 

6月12日の朝日新聞は、「多摩ニュータウン」の事業を担ってきた都と都市再生機構(旧住宅・都市整備公団)の借金残高が、3,200億円に上り、この内、都は単独の最終的な赤字額1000億円を一般 会計から穴埋めしようとしていることを報じた。同事業への都の貸付額も670億円に膨らみ、合わせると都民一人当たり13,000円の税金がつぎ込まれる計算になる。

それに先立つ3月28日、日経新聞の報道によると、東京都は臨海副都心にある第三セクター5社の破綻処理に踏み出した。先ず民事再生法の申請をした2社の負債1,300億円のうち、都の出資金と滞納されている地代の放棄をする。

東京都に限らず、全国の三セクと公社の37%にあたる3,200社が赤字とされ、これらの破綻処理が今後地方自治体の財政を窮地に追い込んでいくことは明かである。窒素ラヂカル子が昨年2月、「『景気回復』」を検証する ―粉飾国家の精算はこれからだ―」で警告したように、民間の不良債権問題のめどが付いたのとは対照的に、国や自治体の不良債権の処理はほとんど手が付いていない。

日経新聞の調査によると、自治体の貯金に当たる財政調整期金が本年度末にゼロになる市が神戸市など12に上る。100万円以下の事実上ゼロの市も8市ある。大阪府堺市など6市は地方債返済に備える減債基金も枯渇する。本年度の税収が予想を下回れば、赤字決算に転落する綱渡り運営である。

そのような窮状の中で、今年1月発覚した大阪市の驚くべき職員厚遇問題は、自治体の首長、議会、職員、労働組合がグルになったタックスイーターぶりをさらけだした。その上、その状況を改善しようとする市当局の予算削減案に対する組合の抵抗、市議会議員自体の「厚遇」の実態と、市行政への議会のチェック機能の欠如も世間をあきれさせた。「公務員というより寄生虫やないか」という大阪市民の怒りはもっともである。

ヤミ退職金・年金、ヤミの昇級短縮、管理職でもない係長級への管理職手当支給、生命保険の全額補助、カラ残業、特殊勤務手当の二重払い、イージーオーダースーツ支給などが次々に明るみに出た。

下水道の維持管理などに従事する都市環境局職員1498人中、約3割の454人が年収1000万円以上、建設局911人の平均651万円、最高1140万円、港湾局466人の平均740万円、最高1187万円、小学校の給食調理員1132人の平均680万円、最高917万円など、民間に比べてどうみても高すぎると思われる。

麻生総務相は参議院の予算委員会で、「大阪市の給与は破格に高い。バス運転手が年収1400万円という数字もあり、いかがなものか。清掃職員では1300万円を超える者が6人いる。職員組合は市長選でフル回転しており、こうした選挙の影響があるなら、極めてゆゆしい」と批判した。

労組との蜜月に決別すると宣言したはずの関市長は、自ら作った諮問機関「都市経営諮問会議」の解散を決めた。それは改革をリードしてきた諮問機関の座長、本間正明阪大大学院教授が、外部からの人材登用を迫ったからである。市長は「人事への越権的介入」と反発した。しかし人事への介入をするほどの改革をしなければ、大阪市の腐った体質は改まらないことを彼は全く理解していない。

地方公務員の給与水準を示すラスパイレス指数というのがある。国家公務員の職員構成を基準として、一般 行政職における学歴別、経験年数別に平均給与を比較し、国家公務員の給与を100とした場合の地方公務員の給与水準を示す。昭和49年には全地方公共団体の平均は110を超えていた。つまり地方公務員の給与は国家公務員より1割も高かった。こういうことは望ましくないとする政府の指導もあって、この指数は徐々に低下し、平成16年4月時点では97.9に低下した。

それでも都道府県レベルでは東京都の102.9を筆頭に、100以上の都道府県が18ある。知事を含む職員の給与を思い切って引き下げた長野県が93.5と際だって低い指数を示している。これは組合を含むいかなる団体からの支援も受けていない田中康夫知事だからできたことである。東京都では102.8の立川市を筆頭に、武蔵野市、調布市、多摩市、東村山市、三鷹市、町田市など、軒並み100を超えている。

しかしこの計算にも問題があるといわれる。この指数は基本給だけを比べているが、地方は目立たない「手当」という形で、実質賃金をかさ上げしているところが多いからである。諸手当のなかで最大で、退職金算定にも反映する「調整手当」は、人事院規則にも違反して、不当につり上げられている自治体は相当数に上るものと見られている。

著しく危険や不快な業務に限って支給する「特殊勤務手当」の拡大解釈で、大阪市水道局では係長以下の全職員に年間17万円を支給していた。そのほか互助団体を隠れ蓑にして公費を様々な福利厚生費に充てているところも多い。大阪市の場合、政令指定都市13市の中で、互助団体への税金の投入は32億円と突出して多い。

本来すべての地方自治体の給料は、「法律、条例の基づかずには・・・支給することはできない」と定められているのだから、大阪市の場合もそれを許してきた市議会にこそ責任があるはずであるが、驚くべきことに市議会の正副議長と各会派の代表が揃って市に是正を申し入れた。自らの責任には頬被りである。

それもそのはず、議員自体がお手盛りで厚遇を受けているからである。大阪市議の議員報酬は年間1700万円のほかに、年間720万円の政務調査費がある。さらに本会議や委員会に出席すると一回一万円の「費用弁償」という名の報酬を受け取る。こんな会議への出席は本来議員の報酬に含まれているはずのものである。

政務調査費をどのように使ったかは、調査研究費や会議費といった大まかな項目の金額を会派ごとにまとめて議長に提出すれば済む。良心的なある市議がその内容を公表すべきだと主張しても、市会議長は取り合おうとしない。

このほか市営の地下鉄やバス、博物館や美術館も無料である。主要会派はこれら無料パスの返上を決めたが、これで市民の批判をかわせると思ったら大間違いだ。こんな厚遇を受けながら、大阪市議が自分たちで政策について条例案を作ったことはないそうである。すべて官僚にもたれかかり、中には議会での質問まで職員に作ってもらう議員さえいるという。これでは市に対してチェック機能を持てるはずがない。選挙を通 じた支援、なれ合いの上に、首長、議会、職員、労働組合がグルになった税金泥棒集団をつくりあげている。この構造は大阪市だけのものではない。このなれ合いにこそ問題の本質がある。

東京都の場合も都議の政務調査費は大阪市と同額である。その透明化については主要各会派とも政治の機密性、政治活動の自由を錦の御旗にして極めて消極的である。条例を改正して使途を明確にすべきだと主張しているのは、共産党と生活者ネットだけだ。都の不透明性は都道府県中最下位 である。

東京区議会の政務調査費は一人当たり月17万円である。その支出について領収書の添付を義務づけているのは6区だけである。使途を透明にした区で、問題とみられる支出が続出した(朝日新聞6月17日夕刊による)。NHK受信料、祭りや花見の会費、菓子代、すでに閉店していた文房具店の領収書、キャバレーやクラブへの支払いなど。公開されない使途の不当性は推して知るべしであろう。不透明な部分は議員への第二の給料といわれるゆえんである。

民間企業なら、無駄な支出は会社業績への悪影響と、それの給料・賞与への跳ね返りで、管理システムを作って制御することが可能である。社員は常にコスト意識を持たされる。しかし公務員や議員の場合には、金の源泉は税金であって、自ら生み出した付加価値によるものではない。コスト意識は全くなく、予算は使わなければ損だというシステム、意識になっている。ここでの無駄 遣いを無くすには、使途の透明化と有権者の監視以外に制御方法はない。

退職金の算定方法についても、民間と公務員では大きな差が生まれている。会社の場合には退職金の算定基礎になる本給部分を小さくして、算定に反映しない部分を増やして給与の増加がそのまま退職金に反映されないように人事制度を改変してきたところが多い。これに対して公務員の場合には、そのような配慮は全くなされていない。それどころか、退職1年前職員の課長級格付け、退職時の一律特別 昇給、職責に関係なく上位に格付けする「わたり制度」という、退職金を不当に増額する制度が半ば公然と行われている。

その結果、民と官とで退職金額に大差を生じていると見た方が良さそうである。一説では大卒30年勤続で、民間平均が2000万円、官が5000万円ともいう。時に明らかになる次官級の退職金が8000万円台というのは確かである。その上天下りで何回も退職金を受け取る。地方の清掃員の退職金がウン千万円だという噂も聞いた。尤も大銀行の頭取の退職金が10億円という話もあるので、レベルを揃えたデータが欲しいものである。

バブル以降の地方経済の疲弊、中小・零細企業の苦闘によって、民間企業の給与は下がるばかりなのに、地方公務員の給与には手が付けられていない。その結果 、例えば青森県での2003年、県内の民間給与水準の平均は、月額247,000円であるのに対し、県の一般 行政職の平均給与水準は436,000円と、その格差は1.7倍にも達している。
 
このように改革の進まない地方政治をそのままにしては、「地方にできることは地方に」というスローガンが、地域住民のためになる行政に結びつくとはとても言えない。改革のキーワードが「透明化」であるならば、今後議員候補者一人ひとりについて、「情報公開」「透明化」についての見解を必ず出させるよう、NPO、オンブズマンなどがアンケートをとって結果 を公開することが有効であろう。

県単位では長野県、鳥取県、三重県などが、知事のリーダーシップによって透明化へ歩み出している。そこに望みをつなぎつつ筆を置く。

(2005.6.17)

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