衒学者の回廊/園丁の今の言の葉

一日一日を悔いなく生きる?(← もちろん生きてるよ)

October 5, 2001
 
English version

皆さま。とあるひとから下のような写真がメールで送られてきました。そして「1日1日を悔いなく生きてください」とメッセージがありました。この写真も結構知られているようで、すでに見たことのある人も結構いると思います。

でもこの写真は、hoax(たちの悪いいたずら、ホラ話)であることが分かっています。多分本人も合成であることを認めてるとか。ちょっと考えてみれば分かりますが、9月のNYは日本と同じで結構蒸し暑く、あんな真冬のジャケットを着たり毛糸の帽子を被ったりしやしない。第一、WTCの屋上は一般の観覧に開放されていません(でした)。この写真も「ねえねえあれもう聞いた?Did You Hear About...」というタイトルの記事ですでにTime 誌 (October 8, 2001) でも採りあげられております。

とにかく、ネット社会ですから普通の噂なら伝搬にもっと時間が掛かるところが、今では一瞬のうちに世界中を駆けめぐってしまいます。しかも何か信用できそう (credible) な写真付きで。我々がいかに騙されやすく、噂を信じやすいかと言うことを頭では分かっていましたが、今回の件で情報操作に対するわれわれの判断力の脆弱さが露呈されたと思います。こうした噂をばらまいて人々が信じていく様を見て、誰が笑っているのでしょう。「Q33NY」の件*もそうでしたが、あれを見てすぐに「やはりユダヤが関係している」とかなんとか結びつけるのも、我々が何を信じがちかと言うことを図らずも示したと思います。まあ、この二つの件を比べて、この写真は恐怖を人に覚えさせるくらいで、「Q33NY」に比べて害はありませんけどね。

*「Q33NY」というアルファベットをWingdingsというMicrosoftのフォントに置き換えると戦慄する絵になる。「Q33NY」の噂がネットで回されたとき、それは「衝突した飛行機のフライトナンバーだ」とかいう説明が付いていた。それは全くのでっち上げで、ちなみに、American Airline Flight 11 (to North tower of WTC)、United Airlines Flight 175 (to South tower of WTC) が正しい。

しかし「あの写真は実は紛うことなきホンモノで、Time 誌が嘘を付いた」と私が言い出したら、話はまたややこしくなります。ただし、Time 誌は後で調べて簡単に嘘と分かるような記事は書かないだろう、と分別のあることを言うこともできます。実際、彼らの情報操作はもっと巧妙なはずです。権威だけが彼らの財産ですから。でも、あの写真を熱心に人に回したひとりひとりの噂を信じるか、あの写真が嘘であったという私やTime 誌の「噂」を信じるか、この場ではそういう二者択一を迫るわけです。

でもさ、人に噂を回す前に自分でフライトナンバーを調べたり、WTCの屋上に行けるかどうかを調べたりすることは、ちょっと努力すればできますよね。噂に振り回されることなく、「一日一日を悔いなく生きたい」ですから。

(でも、怖いのは写真自体ではなく、あのような瞬間が現実にすでに起きていると言うことですよね。写真がなくても想像できるでしょ?その怖さが)


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